線条体のふたつの投射経路には線条体黒質路と線条体淡蒼球路があり、このふたつの経路を担う線条体の中型有棘細胞はそれぞれ前者がGABAとサブスタンスPダイノ-フィンを、後者がGABAとエンケファリンを伝達物質として持つ。本研究では、それぞれの経路から放出されるサブスタンスPとエンケファリンが線条体内のどの細胞にどのように働くかについて調べた。実験は生後20日までのラットの線条体を含んだ脳切片を用い、線条体を構成する4種の主要な細胞、すなわち中型有棘細胞、大型無棘細胞、ソマトスタチン介在細胞、パルブアルブミン介在細胞をそれぞれ電気生理学的および組織学的に同定し、サブスタンスPおよびエンケファリンその他の関連物質をバスに投与して、生理学的性質を調べた。その結果、サブスタンスPに対しては全てのコリン作動性細胞と過半数のソマトスタチン細胞が興奮したが、他の2種類の細胞は全く応答しなかった。また線条体内においた刺激電極による電気刺激によってコリン作動性細胞に引き起こされたslow EPSPはサブスタンスPの拮抗物質で可逆的な阻害を受けた。中にはサブスタンスPの拮抗物質の投与により、逆にslow IPSPが現れる細胞もあり、そのIPSPの大きさは濃度依存的に増加した。従って、コリン作動性細胞にはslow EPSPとSIow IPSPを引き起こす相反する2種類の入力があることが判明した。SIow EPSPはサブスタンスPによると結論されたが、後者についてはまだ調べていない。エンケファリンはコリン作動性細胞を逆に抑制し、それは主としてδ受容体を介するもので、κやμ受容体の作動薬の効果は小さかった。以上の結果から、線条体からのふたつの投射系は同じコリン作動性細胞に対して黒質投射系はサブスタンスPを介して興奮、淡蒼球投射系はエンケファリンを介して抑制的に働くことがわかった。
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