ケージドcAMPを用いた嗅細胞応答の解析:嗅細胞の細胞応答を定量的に解析することを目的に、細胞内のcAMP濃度をコントロールすることができるケージドcAMPを使用して、明瞭な細胞応答を得た。ケージドcAMPをホールセルピペットから単離嗅細胞にロードし、UV光刺激によって細胞内cAMP濃度ジャンプを起こすと、-50mVの保持電位では内向き電流による一過性の応答が観察された。電流の振幅は、UV光の強度に依存して大きくなった。保持電位を正の方向へシフトすると、応答振幅は減少し、0mV付近で反転した。この反転電位値は、嗅細胞の匂い応答のものと一致する。50ミリ秒の刺激でUV光刺激を与えると、10ミリ秒以内に応答が立ち上がり始める。この応答潜時は、匂い応答の応答潜時(120ミリ秒)に比べて極めて小さく、従つて、匂い刺激を与えた際に生ずる応答の潜時は、チャネルに起因するものではなく、主に細胞の情報変換過程のリセプタから酵素(アデニレートシクラーゼ)によるものであることが証明された。 匂い物質による応答抑制効果の分子機構:匂い物質が情報変換過程のどのステップを阻害するのかを調べるために、匂い応答に対する抑制とケージドcAMP応答に対する抑制効果を比較した。その結果、cAMP応答は匂い物質によって顕著に抑制された。もしも、匂い分子がリセプター蛋白やG蛋白、アデニレートシクラーゼのいずれかを阻害するものであるならば、ケージドcAMP応答は匂い物質によって抑制されないものであると予想される。また、cAMP応答抑制過程の時間経過は、酵素系を介する応答発生過程などと比べて極めて迅速であるので、匂い物質がcAMP分解酵素(PDE)を活性化している可能性は低い。以上の結果から、匂い物質はイオンチャネルそのものを抑制している可能性が高い。さらに、情報変換チャネル以外の膜イオンチャネル(Na、Ca、Kを含む電位依存性イオンチャネル)に対して、匂い物質の効果を調べたところ、多くのチャネルは物質の濃度依存的に抑制されたので、匂い物質は、イオンチャネル全般に対して抑制効果を持つらしい。現在、さらに詳しく、この点を調査中である。
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