本研究では、嗅覚受容器細胞(嗅細胞)における化学物質の受容とG蛋白に仲介される細胞内情報変換の分子的メカニズム、及びそれらを構成する酵素、イオンチャネル、セカンドメッセンジャーの動態を定量的に研究調査および解析する事を最終目標として以下にあげる点に関する実験研究を行った。 (1) 匂い順応の機構とその定量化 匂い順応のメカニズムに、Caイオンが関わることを見いだし、実際にはCaは細胞内から情報変換チャネルを閉じる働きを持つことで、細胞の応答感度を調節することを明らかにした。この細胞内Caフィードバックのターゲットが、cAMP感受性イオンチャネルそのものであることがわかった。 (2) T型Caチャネルの活動電位発生への関与 嗅細胞は伝導性の軸索を持ち、活動電位を発生する。従来は、この活動電位はNaチャネルによってのみ発生するものであるとの考えが有力であったが、今回、単離嗅細胞に膜電位固定法を適用し、詳細な解析的研究を行った結果、T型CaチャネルがNaチャネルと協同する形で活動電位の発生に関与していることが明らかとなった。 (3) 匂い分子による非選択的なイオンチャネルの抑制効果 ある種の匂い分子は、嗅細胞の興奮制を弱める鎮静作用を持つことが知られている。本研究では嗅細胞に存在する各種イオンチャネルに対する匂い分子の効果を検討した。その結果、有効濃度に差があるものの、すべてのイオンチャネルが匂い分子によって抑制されることが証明された。その効果は、局所麻酔剤のイオンチャネルに対する効果ににている。 (4) ホルモンによる嗅細胞活動性の修飾 本研究ではアドレナリンがCaチャネルを抑制し、Naチャネルを増強させる2つの効果を持つことで活動電位の発生頻度を調節することを見いだした。これらの効果は抑制と増強という異なる現象ではあるが、ともに細胞内cAMP依存性のリン酸化に依存している。
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