BphC酵素は、PCB分解菌Pseudomonas sp. strain KKS102より単離され、PCB分解経路において重要な役割を果たす酵素である。本研究では、このBphC酵素の立体構造を高分解能で明らかにし、得られた立体構造情報をもとに、BphC酵素の立体構造と反応機構の関係を明らかにしてBphC酵素に代表されるextradiol型dioxygenaseに普遍的な反応機構を導き出すことを目的としている。 申請者らは、つくばの高エネルギー物理学研究所放射光実験施設の坂部式ワイセンベルグカメラを使用することにより、1.5Å分解能までの回折データを集めることに成功した。現在、1.8Å分解能での精密化を完了している(R-factor=20.3%)。また、20種類以上の変異体を作成し、これらの立体構造を基質が無い場合、および基質と結合している場合の両方の場合について決定した。 これらの、立体構造的データと共同研究者ら(長岡技術科学大学・生物系 福田雅夫教授)により決定された、生化学的データを照らし合わせることで、BphC酵素を始めとするextradiol型dioxygenaseの反応機構および基質特異性について以下に上げることを明らかにすることができた。 反応機構について 1)反応の際に観察される部位特異的な芳香環の開裂は、酸素の結合位置が、立体構造的に束縛を受けていることから生じるらしい事を発見した。 2)His194は、全てのextradiol型dioxygenaseに於て保存されており、触媒反応に必須であることを見出した。また、このHisは、水酸基から水素を引き抜く塩基として働いていると考えられた。 基質特異性について 1)基質の結合部位は、疎水的環境であり、基質の形と高い相補性を有している。この相補性は、反応効率に大きな影響を及ぼす。また、この形状は、触媒反応を行いやすい形になっていることを見出した。 2)基質の結合には、活性中心の鉄イオンは必ずしも必要でなく、基質は主に疎水相互作用によって、活性部位に結合することを見出した。
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