低温微生物は、常温菌が産生する酵素より、活性化エネルギーが低く、低温において活性の高い酵素を産生することが知られている。こうした低温活性酵素の低温適応性機構は不明な点が多く、研究材料として興味深い。そこで、本年度の研究では低温微生物Flavobacterium balustinum P104が菌体外に分泌する低温活性プロテアーゼに着目し、その特性を調べた。 サケ(Oncorhynchus keta)の内臓から単離された低温微生物Flavobacterium balustinum P104を10℃で通気撹拌培養し、培地中に分泌されたプロテアーゼを硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過などにより精製した。そして、この酵素の分子量、温度特性、pH特性、基質特異性、阻害剤の影響などを調べた。さらに、本酵素のN末端アミノ酸配列も決定した。精製した酵素をSDS‐PAGEにより確認したところ、単一バンドに精製されており、分子量は約70kDaであった。この酵素の最適反応温度は40℃であり、市販の常温菌由来の酵素に比べて約20℃も低く、低温活性酵素であることが示唆された。この酵素の温度安定性は常温菌の酵素に比べて低く、50℃ 10分間の処理により完全に活性を失い、低温菌の温度不安定性の特性を示していた。至適作用pHは8.0であり、pH6.5‐10.0の範囲で安定であった。また、この酵素の阻害剤の影響を調べたところ、Phenylmethanesulphonyl fluorideにより著しく酵素活性が阻害されたことから、本酵素はセリンプロテアーゼであることが示唆された。さらに、本酵素のN末端アミノ酸配列を調べたところ、既知のプロテアーゼのアミノ酸配列と相同性がなく、新規なプロテアーゼであることが示された。
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