研究概要 |
セルロース系繊維は吸湿性が良く、熱や化学薬品に対して比較的安定であるが、水に対する形態安定性が悪く、しわになりやすく、また繊維に形状記憶能を与える事が困難であった。 本研究はこれまで寸法安定化のためのよい加工法のなかった綿や麻、レ-ヨン等のセルロース繊維をはじめ、ウ-ルや絹等のタンパク質系繊維に形状記憶能を賦与することを目的として、高温高圧の水蒸気処理による天然繊維の寸法安定性やパ-マネントプレス加工さらには防しわ性、洗濯による形状の回復性、及び繊維の立体成形加工について検討した。 1 綿や麻、ビスコースレ-ヨンなどのセルロース系繊維及び羊毛や絹等のタンパク質系繊維からなる筒編みニットを120〜200℃の飽和水蒸気で2分間処理した後、解編し、乾燥・湿潤の繰り返しや熱水処理によるクリンプの安定性や形態の回復性等の形状記憶能及び引張ヤング率等の繊維強度に対する評価を行った。セルロース系繊維の場合は180℃・2分処理の場合でもっとも繊維強度が向上し、元の繊維の1.2倍程度となるが、固定化率は処理条件が強くなるにつれて向上した。絹では160℃・2分、ウ-ルの場合は130℃・2分の処理が最適であった。 2.これら水蒸気処理した繊維の化学構造及び形態的な変化についてX線回折、固体^<13>C-NMR,走差電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、紫外線顕微鏡等を用いて検討し、形状固定化の機構がセルロースの結晶構造の変化によることを明らかにした。また、この研究費によって購入したレーザー光学式非接触三次元形状測定装置を用いて繊維表面の微細な構造を三次元的に解析し、高圧水蒸気中でのプレス加工により布地表面荒さが約1/5程度に平滑化され、蒸気処理のみによってセルロース系繊維のシルケット加工が可能であることを明らかにした。 3 これら布地にたいして3次元的な成形加工、たとえばクレープ加工やエンボス加工さらには布地に文字や柄を立体的に浮きだし、1枚の平面の布地からプレスによって帽子などの立体成形を施す等の、繊維の新しい加工法の開発を行った。
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