我々が発見した二置換マロン酸を不斉脱炭酸する酵素(AMDase)は補因子を全く必要としない非常にユニークな脱炭酸酵素であり、240個のアミノ酸からなる。4個含まれるシステインの内1個が活性部位にあって、反応に重要な役割を担っていることが明らかになっている。部位特異的変異によってこれらのシステインのうち何れか1個だけをセリンに変えた変異酵素4種類を作ってその活性をそれぞれ調べた。その結果、N端から数えて188番目のCysをSerに変えると活性が極端に小さくなることが明らかになった。この事から、このCysが酵素活性に直接関与していると推定できる。 基質である二塩基酸がどの様に酵素の活性部位に結合し、またシステインが基質を活性化するのにどの様な役割を果たしているかは非常に興味がもたれるところである。これらのことについて様々な基質や阻害剤を利用して詳細に検討した。まず、基質の活性部位内での立体配座であるが、幾つかの化合物の反応性、ミカエリス定数等からベンゼン環がある配座に固定されているだろう事が推定できた。その固定のための少なくとも1つは、酵素の芳香族アミノ酸残基と基質のベンゼン環の間に形成されるCH-p結合であることがあきらかとなった。 酵素をコードする遺伝子のランダム変異によって基質特異性を変化させる試みを行った。具体的には、2重鎖DNAに亜硝酸を作用させた。その遺伝子断片を再びプラスミドのつないで大腸菌を形質転換し、メチル基の代わりにエチル置換基を有する化合物に対して活性を有する株を検索した。残念ながら、7000株の中から目的のものを見つけることはできなかったが、野生株より活性の高い酵素が見出した。
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