研究概要 |
1995年度から1997年迄3カ年間に福岡市周辺地域より肥満の是正を試みるクリニック教室に応募された肥満者の中から、研究の目的に沿う合計145名(うち男性10名)ついて検討し以下の成績を得た。 1)肥満と中枢機能との関係 肥満者では時間認知能の異常と食行動の異常が再確認され、肥満の是正に成功した者では、それらの異常が正常に近づく傾向を認めた。a)視床下部満腹中枢刺激因子のひとつと考えられている血中3-ヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyric acid以下3-HBと略す)の濃度は、クリニック開始1.5月後、体重減少につれて著しく上昇した。この上昇はその後次第に減少した。肥満遺伝子ob遺伝子のcDNAをコードするレプチンは摂食抑制作用とエネルギー消費量増加作用を持つことが近年明らかになりつつあるので、本研究でも血中レプチン濃度と体重の推移との関連を1997年より検討した。その結果、肥満者78名の血中レプチン濃度(ng/ml)は平均14.9±0.66であり、血中レプチン濃度とBMI(kg/m^2)、体重(kg数を対数変換した)、体脂肪率(%),体脂肪量(kg),MRIにより測定した腹部皮下脂肪(面積cm^2),内臓脂肪(cm^2)総脂肪(cm^2)との間に高い正相関を認めた(すべてP<0.001)。しかし、血中レプチン濃度は体重の再上昇(いわゆるリバウンド)に伴って再上昇した。即ち、ヒトの肥満者では肥満ラットやマウスの研究結果と異なり、レプチン抵抗性があると考えられた。b)食行動に関するアンケート調査を行い,ひずみの程度を得点化した。BMIと食行動得点との間に正の相関を認めた。食行動の得点は肥満クリニック開始時に比して4ヵ月後有意に減少し、24ヵ月後も減少傾向を続けていた。c)グラフ化体重日記は肥満者の減量と維持に有効であるとする坂田らグループの報告がある。本研究でもグラフ化体重日記法をとり入れ内科指導に用いた。記録を全くしない、1日4回測定せず1〜3回に止めた、途中で記録を中止した等、不十分な体重日記を記録したものでは体重の5%以上の減量に成功したものは4%に止まったのに対し、ほぼ記録をしたものでは70%であった。従って減量とその維持には、グラフ化体重日記法は有用であると考えられた。 2)肥満者ではインスリン抵抗性が亢進していた。このインスリン抵抗性の亢進は肥満の是正に伴い正常化した。インスリン抵抗性の改善度と腹部脂肪面積の減少度との間に正相関を認めた。 3)リバウンドを予測しうる因子を種々検討したが、グラフ化体重日記法以外に明らかな因子を確定する事は出来なかった。 4)日本人の肥満者では、(イ)食事と運動の指導のみでは減量しにくく、食行動異常の治療を中心とした内科的指導により初期に少しでも減量に成功させることが重要であること、(ロ)滅量指導には1日4回の体重測定記録法を用いて食行動異常を自ら認識させ体験させることが重要であること、(ハ)2ヵ年以上肥満是正を維持し続けるには知識よりも、体験による認識など脳機能の関与が大きいこと、(ニ)リバウンドの防止に関する因子としてレプチン抵抗性が考えられるが、レプチンや3HBのみではリバウンドを予測する事は困難であること等の結果を得た。
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