研究概要 |
昆虫の気管系は胚発生において外胚葉が上皮性を保ったまま陥入、分岐、伸展、融合してつくられる管状上皮のネットワークである。この組織をモデルにして形態形成における細胞の移動、接着の役割を研究した。気管の融合に際して先端細胞同士は接触し、その間にDE-カドヘリンを蓄積させる。更に先端細胞内部に空間(lumen)が生じ、管状の形態に変化する。先端細胞のこのような形態変化は気管の融合において先端細胞のapical-basalの極性が変化していることを示唆している。そこで微小管の一部に局在化するNodとβ-ガラクトシダーゼの融合蛋白質(NZ)をマーカーにして気管の融合に際しての細胞骨格系の変化を追跡した。NZは先端細胞が標的に接触する時期に細胞中心部を気管枝先端部に向かって線状に局在化する。これに沿ってlumenに分泌される2A12抗原を含んだ小胞体や、細胞接着面に輸送されるDE-カドヘリンを含んだ小胞体が並ぶことが観察された。この段階に引き続きDE-カドヘリンは細胞の接着面に移動し、更にNZのフィラメントに沿ってlumenが形成され、そこに2A12抗原が放出された。この観察結果は先端細胞内部でlumenの形成位置と細胞の接着面とがNZで標識される微小管構造を介して決定されるという可能性を示唆する。また細胞膜間シグナル伝達系のレセプター分子であるNotchとそのリガンドであるDelta,Serrateの気管系における機能を調べたところNotchの時間的,細胞特異的な活性化が気管形成に必須であることを示す結果を得た。
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