本研究の目的は、表面の広領域の同時観察、表面の2点間の物性測定、表面平行方向の電場印加、表面ファブリーケーション等へのSTMの応用をめざし、双探針のSTM技術や研究手法の開発を行うことである。 本年度は、双探針STMの本体を作製し、初年度に製作した双探針ヘッドと4端子試料ホルダーを組み込み、装置の調整と予備的な観察・測定を行った。あわせて、表面物性測定の対象となる試料として、バルクと切り放された半導体結晶薄膜の作製法の開発を進めた。 1.双探針STMにおいて2本の探針で同時に像を取得することは、走査に伴う機械的な振動のために難しいことが分かり、交互走査を行うようにした。これにより、本研究に必要なSTM装置本来の分解能の像を得ることができるようになった。 2.Si(111)基盤にCaF_2絶縁膜をエピタキシャル成長させ、その上にSi(111)結晶薄膜を成長させた、いわゆるSOI(Semiconductor on insulator)構造の作製法を研究した。その結果、Siの成長時に基盤温度を変える、2段階成長法を用いることで、基盤と反平行方位で成長するSi(111)結晶薄膜が得られることが分かった。 SOI構造でバルクから切り放された半導体薄膜の表面の電気伝導は、それ自身、興味深いだけでなく、電気伝導へのバルク部分の寄与を大きく減少させることができるので、高温でも電気伝導における表面効果を測定でき、表面構造相転移やエピタキシャル成長の過程での構造変化に伴う物性の変化が調べられる。これは双探針STM法を応用する格好の対象であり、興味深い。
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