本年度は、一酸化炭素を用いる新しいカルボニル化反応の開発とその合成化学的利用について検討した。その結果、セレンを共存させることにより、有機リチウム化合物が常圧の一酸化炭素と温和な条件下で反応し、セレノカルボン酸塩を生成することを見いだした。これを親電子剤で捕捉することにより、セレノエステル類の新規合成法を開発した。このカルボニル化反応の反応経路についても検討し、反応系中に鍵活性種としてセレン化カルボニルが生成している可能性の高いことを明らかにした。また、一酸化炭素の代わりに、それと等電子構造を有するイソシアニドを用いることにより、対応するセレノイミダ-ト類が収率良く得られることを明らかにした。さらに、この反応原理を応用することにより、セレン、アミン、イソニトリル、ハロゲン化アルキルから、イソセレノ尿素類の簡便な合成法を開発した。また、セレノイミダ-トとトリブチルスズラジカルとの反応によりイミドイルラジカルを発生させ、それを効率良く捕捉することに成功し、イミドイルラジカルが対応するアシルラジカルの合成化学的等価体として利用できることを明らかにした。さらに、一酸化炭素を用いるラジカルカルボニル化反応の合成化学的応用面の開拓を行った。その中で、光照射下、有機セレン化合物を基質として用いる新しいカルボニル化反応を開拓した。また、適当な位置に炭素-炭素二重結合を有する有機ヨウ素化合物を用いることにより、環化を伴って二分子の一酸化炭素が導入されるダブルカルボニル化の新手法を開発した。
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