時間的・空間的に無相関なノイズの発生は、ニューラルネットワーク等知的情報処理を行うハードウエア実現に重要であるが、簡単な回路で実現するのはこれまで非常に困難であった。抵抗で発生する熱雑音は理想的なホワイトノイズであり、これを必要な振幅レベルに増幅すれば良いが、これまではうまく行かなかった。抵抗Rから発生する熱雑音のパワーはv_n^2=R・4kTΔfで与えられるが、Δfが1/RCで帯域制限を受けるためノイズパワーはv_n^2=kT/Cとなり、増幅アンプの人力容量によって1mV以上に増幅することは事実上ほとんど不可能であった。これに対し我々は、我々が発見したソースフォロワアンプの逆ミラー効果でCを実効的に非常に小さくしたこと、さらにCMOSアンプでは飽和領域での大きなドレイン抵抗がさらにアンプのゲイン倍されて熱雑音発生源のRとして働くことに着目、3段増幅器構成のランダムノイズ発生アンプを作った。即ち、一段目のCMOSインバータアンプで発生したノイズを、逆ミラー効果で入力容量を小さくした二段目のCMOSソースフォロワアンプで受けて電流増幅する。これを三段目のCMOSカスコードアンプで増幅して出力するという簡単な回路で実現した。これを、0.7ミクロンCMOSで試作し、評価を行った。これにより、r.m.s.で300mVのノイズが、帯域50MHzで得られる見通しを得た。この帯域では20nsec以上の時間間隔で電圧出力サンプリングすれば、自己相関係数が1%以下の疑似無相関ノイズが得られる。一方、ランダムノイズの応用として、シリコン網膜の知能化応用を考え、簡単なニューロンMOSソースフォロワ/インバータ回路の組み合わせで、初期視覚で重要な「空間ノイズ除去」、「ラプラス処理によるエッジ強調」、さらに「エッジ検出」を行うfocal plane processorを開発、0.7ミクロンCMOSで試作してその動作を確認した。さらにエッジ検出過程、並びにその後画素レベルのプロセッシングにランダムノイズを導入、これによってきわめて興味深い結果を得た。つまり、コントラストの低下等で消失したパターン輪郭線を、いわゆるstochastic resonanceによって復元できる事がわかった。
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