研究概要 |
質量分析法において多重検出方式(マルチコレクション)は、同位体分析精度を高める事も有効な手段であるといえる。多重検出方式としては、これまでファラデー検出器が広く用いられてきた。しかし、高精度同位体分析に適したファラデー検出器は、イオン検出感度が低く(二次電子増倍管などの手法の1,000分の一程度)、微量元素の同位体分析を行う上で問題となっていた。そこで本研究は、高精度同位体分析を目的とした新しい高感度イオン検出器の開発を試みた。 本研究で開発した検出器は、AMI(Amplified MOS Imager)とよばれる固体撮像素子であり、250,000画素(単一ピクセルの大きさは5μm×10μmで全体の大きさは8mm×6mm)からなり、イオンビーム強度の二次元分布を調べることができる。つまり、一つのAMI検出器で複数のファラデー検出器の役割を果たすことができる。AMI検出器は、1)イオン(荷電粒子)を直接検出できる唯一の固体素子である、2)素子内部に信号増幅回路をもっているためS/N比が高い、3)検出器が積分型であるため微弱な信号についても正確な強度情報が読み取れる、などの特長を有しており、イオン検出感度の向上には最も有力な検出法だといえる。本研究では、このAMI検出器をICP質量分析計にとりつけ、様々な質量数および強度のイオンの計測を行い、基本的な特性評価を行うとともに、質量数180〜210amuの分析元素(ハフニウム、タングステン、鉛、タリウム)について、3つの同位体信号を同時検出・計測することに成功した。またAMI検出器は、テレビカメラのようにリアルタイムでイオンビーム強度をモニターすることも可能であり、質量分析計のイオンレンズの調整や分析条件の最適化が容易となり、従来複雑であった質量分析計の調整が格段に容易となったことも特筆すべきといえる。現段階では、検出器のノイズレベルが理論値と比較して10倍程度残っており、実用的なダイヤミックレンジとしては4桁程度しか得られていないが、同位体分析の繰返し再現性(測定精度)としては0.01%程度が得られており、当初目標としていた基本性能は達成できたといえる。今後、検出器のノイズを低減させるために信号増幅回路の改良を行いイオン検出器としての実用化をめざす。
|