研究概要 |
本年度は前年度において開発した高圧ガス示差熱天秤を使い、高温超伝導体YBa_2Cu_3O_yの高酸素圧下での酸素圧と温度と酸素量の関係(熱平衡)を研究した。従来の研究は酸素圧1気圧以下でのもので、一定酸素分圧のもとでは、温度上昇とともに酸素欠損が生じ、また、酸素欠損と同時に酸素の規則配列の不規則化も生じ、ある程度およびある酸素量で斜方晶から正方晶への規則-不規則転移が見られる。本研究では、1気圧から150気圧までの高酸素圧下での、温度による酸素量の変化と規則-不規則転移について調べた。結果、50気圧を越える酸素圧下では、室温から400℃の間で初め一旦重量が増え、400℃以上で減少するという奇妙な現象を見出した。この重量の増加が機械的なものに起因するのか、実際に酸素量の増加を示すのか、が問題であるが、ブランク試験ではこのような奇妙な重量増は観測されず、YBa_2Cu_3O_y固有の性質と思われる。現在、LaBa_2Cu_3O_yなど他の高温超伝導体でも同様な現象が見られるか、検討中である。また、酸素欠損は、同じ温度で比較するなら、酸素圧が高くなるにしたがい少なくなり、規則-不規則転移が起こる温度は酸素圧の上昇とともに高温側に移動する。その時の酸素量も多いほうにずれる。現在、測定精度をあげるため装置を改良中で、改良した装置により、より定量的な測定が可能で、イオン平衡の解明を行う予定である。 また、試作した装置の試験をかねて、シュウ酸カルシウム1水和物の熱分解過程を調べた。シュウ酸カルシウム1水和物は、3段階で分解し、それぞれの段階でH_2O,CO,CO_2を放出するので、検温と重量変化の精度を調べる良い標準物質である。Arガス圧を変化させ、この熱分解過程を調べた結果、最初と最後の過程は圧力増加とともに高温側に移動するが、中間のCOを放出する過程は圧力によって変化しないという興味ある結果を得た。熱分解を起こす物質は非常にたくさんあり、また、工業的にも熱分解は重要なプロセスであるが、熱分解過程のガス圧変化を調べた研究はこれまでなく、新しい研究領域が開拓できる可能性がある。
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