研究概要 |
これまでに合成されたトロポノイドジチオクラウンエーテル類は,水銀に対してのみ親和性を示すことが分かっている.我々は,他のチオクラウンエーテル類に見られないその特異性の由来を明らかにするために,今回計算化学的手法を用いた.まず,おおよその母体構造を分子力学計算(Sony Tektronix社CAChe Mechanics)により求め,それを基に水銀錯体を組み立てた後,同じくMechanics計算を行い,仮の錯体構造とした.引き続き,半経験的分子軌道計算(CAChe MOPAC,PM3ハミルトニアンを使用)を行い,母体とその水銀錯体の構造を比較・検討した結果,水銀がポリチオエーテル環の空孔にフィットすることが明らかとなった. 本来ならば直ちに非経験的分子軌道計算(ab initio法)に移るべきであるが,現在所有するSony Tektronix社CAChe Mulliken (Version 1.1.0)では水銀が取り扱えない.そこで,ポリエーテル環に酸素のみを含む仮想分子,“トロポノイドクラウンエーテル"に関して,母体とそのリチウム錯体の構造を求めた. 一般に水銀錯体の構造解析に関しては,今のところMOPACが最も信頼性が高い.しかしながら,あくまでもMOPACは半経験的計算法なので,さらに精度の高い計算(非経験的分子軌道計算)を行わなければならないのは自明である. なお,平成7年度中にCAChe Mullikenが2.0にバ-ジョンアップされ,水銀の計算が可能となる予定であったが,間に合っていない.
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