研究概要 |
これまでに合成されたトロポノイドジチオクラウンエーテル類は,水銀に対してのみ親和性を示すことが分かっている.筆者は,他のチオクラウンエーテル類に見られない特異性の由来を明らかにするために,昨年度に引き続き計算化学的手法を用いて錯体の構造,および物性を求めた. これまで,トロポノイドジチオクラウンエーテル-水銀錯体について半経験的分子軌道計算(CAChe MOPACPM3)を,仮想分子"トロポノイドジチオクラウンエーテル"-リチウム錯体について非経験的分子軌道計算(CAChe Mulliken)を行ってきた. 今年度は,異なるハミルトニアン(AM1)を用いてトロポノイドジチオクラウンエーテル-水銀錯体の構造解析を行った.さらに,"トロポノイドクラウンエーテル"-マグネシウム錯体についても計算を行い,電子状態を調べた. 本研究により,トロポノイドジチオクラウンエーテルが水銀イオンと錯形成する場合,トロポンカルボニル基の寄与が重要であることと,半経験的分子軌道計算(MOPAC)をクラウンエーテル錯体に適用する際には,計算結果が用いるハミルトニアンに依存することが判明した. なお,非経験的分子軌道計算ソフトウェア(CAChe Mulliken)のヴァージョンアップ(ver.1.1.1→2.0)により,水銀のab initio計算が可能となるはずであったが,本研究期間には間に合わなかった.従って,新規イオノフォアの分子計算・合成には至っていない.
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