1.水溶液表面に偏析した物質の検出・分析に使用できる方法は極めて限られている。本研究は光電子を利用して水溶液の表面分析を試みるものである。 2.現有機器は分解能、迷光強度、感度において不十分なものであるので昨年度から新しい分光器等の整備を行ってきた。その他の周辺装置についても設計制作を行った。水溶液表面に析出したイオンの溶媒和構造を知ることは本研究にとって重要であり、溶液の表面の全反射XAFS解析を同時に進行させた。一方、本研究の理論面の展開をはかり、溶液中の分子やイオンのイオン化電位の溶媒和による変化を理論的に取り扱うため、溶質-溶媒間相互作用を取り入れた分子軌道計算を始めた。 3.現有機器を使用しての研究成果を以下に述べる。 (1)Langmuir膜の二次元結晶化を促進させることで良く知られた亜鉛イオンのEXAFS解析を行った。水溶液表面にステアリン酸の単分子膜を形成させ、この膜に亜鉛イオンを吸着させた。この時亜鉛イオンは四配位四面体構造を取ることが分かった。これはバルクに存在するものの六配位八面体構造とは大きく異なる。 (2)テトラアルキルアンモニウムイオンと種々のハロゲン化物イオンは溶液表面に単分子吸着を行うことを表面張力の実験から確かめ、その飽和吸着量から水溶液表面ではヨウ化テトラブチルアンモニウム塩は陽イオン・陰イオンの溶媒和数がかなり小さくなることが示唆された。このことと符合するヨウ化物イオンのイオン化電位の低下が観測された。
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