研究概要 |
SOLAR-B可視光望遠鏡のような高精度な宇宙用望遠鏡を成立させるためには、軽量・高剛性でかつ熱的寸法安定性の極めて優れた構造要素の実現が不可欠である。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)はこのような要求を満足させることのできる殆ど唯一の材料であるが、マトリックスである樹脂の吸湿変形の制御や熱伝導の低さなどの課題を抱えていた。本研究では、これらの課題を解決するような新たなCFRPの開発を行うとともに、今後の光学機器の大型化を鑑み、構造要素として主要な光学ベンチトラス構造用CFRP精密パイプおよび反射鏡の開発試作を行った。CFRP精密パイプは、望遠鏡構体に要求される位置的トレランスを満足するためゼロ熱膨張化する必要があり、熱電導度が高ければ熱制御によりさらに高い寸法安定性が得られる。このため、近年実用化されたピッチ系高弾性炭素繊維と耐吸湿性に優れるシアネート樹脂マトリックスの組み合わせによるCFRPの開発試作及び材料設計を行い、熱変形および吸湿変形が無く(サブppmオーダ)、長手方向に金属並みの高い熱伝導性(111W/mK)を持つパイプを得ることができた。これはただちに実機に適用可能である成果である(Ozaki et al.,Proc.SPIE,2804,1996)。また、反射鏡主鏡では、大型化に伴う重量増加・太陽熱入力の放熱のために、軽量でかつ背面からの放熱性に優れた構造体の実現が鍵になる。基礎開発として、光学鏡面精度を確保するゼロ膨張ガラスと構造剛性及び放熱性を確保するCFRPを組み合わせた複合構造を設計、試作・評価を行った。製造鏡面精度は目標を越えるλ/44(λ=633nm)が、熱試験においても従来のガラスに比べて格段の放熱性が確認されたが、鏡面形状の安定性に改良の余地がある。
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