走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針近傍からおこる可視発光現象(STM発光)の発光は極めて微弱なため、そのスペクトル測定には、数十から数百秒の時間を要する。この間の探針位置のドリフトは発光スペクトル測定の位置分解能を低下させる。この位置分解能の低下を避けるためには、スペクトル測定時間を分割、1ステップ辺りの測定時間を短縮し、各ステップ間でSTM像測定により探針位置を補正(探針位置の固定)するという方法をとればよい。 本年度は上記の探針位置の固定を行うためのアルゴリズムの開発、固定機構を組み込んだSTM制御ソフトウエアの試作、およびその動作確認を行った。探針位置の固定は発光測定の前後で測定した2枚のSTM像の比較により発光測定後の探針位置を割り出し、発光測定をしたい位置に探針をもどすという作業を繰り返すことによって行う。このとき探針位置の割り出しはテンプレートマッチング法によって計算機的に行う。この計算に要する時間は、発光測定時間よりも十分短くする必要がある。そこで残差逐次検定法や画像の圧縮を採用し、計算時間の短縮化をはかった。 金の蒸着膜を試料として、試作ソフトウェアを実際に動作させたところ、探針位置のドリフトが2nm/分程度の状況下で直径数十nmの金のグレインの頂上に探針を固定させることに成功した。来年度はこのソフトウェアに発光計測ルーチンを組み込むことにより実際にSTM発光スペクトル計測を行う予定である。
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