今年度の本研究の目的はこれまで申請者らが中心となって行ってきた赤外-遠赤外領域での放射光利用での実績を基に、放射光の短パルス性を利用するこることで従来の時間応答スケールを千分の一以下に縮めるという新境地を開くことが可能な赤外領域における時間分解分光を実施することである。放射光は本質的にナノ秒(10_<-9>秒)という短い時間内に光が発せられる短パルス光源であり、この高速パルス性をフルに利用すればこれまでの時間応答スケールを一挙にナノ秒領域(従来の千分の一以下)に縮めることが出来る筈である。 本研究ではこれまで申請者らが実績を挙げてきた分子科学研究所(岡崎市)の放射光施設UVSORの赤外ビームラインBL6A1を利用して先ず赤外放射光の短パルス信号を観測することを試みた。検出器は現在最も応答速度が速い半導体検出器MCTを用いた。プリアンプまで入れた応答速度は20ナノ秒である。電子ビームの固まり(「バンチ」と呼ばれる)は唯一個周回するシングルバンチモードにおいてそのパルスの立ち上がりを測定したところ見事に信号を検出することが出来た。信号の時間変化は検出器の応答時間に対応する20ナノ秒の立ち上がりを持っていた。赤外放射光のパルスの立ち上がりを計測できたのは我が国ではこれが初めてであり、放射光が赤外領域全般で白色光源であることを考えることを実験により任意の波長を選ぶことの出来るパルス光源の開発に見通しが得られたことになる。
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