研究概要 |
本年度は,(1)地球科学試料の局所分析専用チャンバーの光学系の調整と動作の制御機構の開発,(2)解析プログラムの選定と導入,(3)直径20μmのマイクロビームの実現,(4)標準試料の調整,が主目標として設定され,その実現が試みられた. (1)チャンバーの光学系については既に調整が終了し,イオンビームの高い透過率を実現することが残されているだけである.動作制御に関しては,新たなプログラムを開発し,測定部分に迅速にビームを移動できる機構を完成した.(2)解析プログラムについては,オーストラリアの連邦産業科学研究機構とカナダのゲルフ大学の解析ソフトウェアの内容を比較検討した結果,カナダのゲルフ大学のソフトを導入することに決定した.(3)筑波大学加速器センターの大型加速器による直径20μmの安定したマイクロビームの作成は,ビームを絞る四重極レンズの工作精度の不足と、分析に必要なエネルギーにまで出力を下げて使用するために生ずる大型加速器の不安定性にとって,困難であることが明らかとなった.そこで,安定性の高い小型のタンデトロン加速器を加速器センターに新たに設置し,高輝度のマイクロビームを実用化することを現在進めている.このビームラインは来年度の夏までには完成する予定で,開発が終了しているチャンバーと,導入する解析ソフトを併せることで,日本初のプロトンマイクロプローブが完成することになる.大型加速器を使用した場合,直径80μmのマイクロビームは実現できており,小型のタンデトロン加速器では不可能な高エネルギーのビームを照射するのにはこちらの方が都合がよい.特に,重元素を分析する場合には,ビーム径はやや大きいものの,大型加速器を用いたビームラインでの分析が必要である.(4)微量元素の定量分析に欠かせない標準物質の設定については,白金チューブ内に封入した粉末標準岩石試料を高周波を使って5分以内に溶融し,それを水中に投じて急冷することで,ほぼ均質なガラス試料を得ることに成功した.一部のガラスはには溶融時の高い粘性により微量元素の多少の不均質性は認められるが,殆どガラスで微量元素の不均質性は測定誤差の範囲内に入っており,同法が標準物質作成法としての有効であることを示している.
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