本研究では、非熱平衡状態における表面原子の運動を追跡し、表面におけるメゾスコピックな構造ダイナミクスの微視的機構に明らかにすることもめざして、温度可変走査トンネル顕微鏡の開発、金属表面共吸着系における秩序形成、「爆発的化学反応」などの研究、さらにH+H/M系における反応ダイナミクスの研究などをおこなった。 開発した走査トンネル顕微鏡装置は、超高真空下において、試料温度100〜1000Kの範囲で原子像観測が可能である。また、非常に低雑音・高分解能であることも重要な特徴である。トポグラフィモードにおける雑音は3pm(p-p)であり、遷移金属の(100)表面や(111)表面の原子像観測が可能である。また、トンネル電流を〜1pAに絞っても安定なトポグラフィ像観測ができることから、有機分子蒸着膜などの低電気伝導性試料の観測にも有効であることがわかった。これらの特徴は、開発した走査トンネル顕微鏡の適用範囲を、計画していたよりも大幅に広げるものである。 この新しい走査プローブ顕微鏡の応用をめざして、Pd(100)表面上への一酸化炭素(CO)と一酸化窒素(NO)の共吸着について、低速電子回折、高分解能電子エネルギー損失分光、熱脱離などにより検討した。その結果、NOとCOが安定な秩序混合相を形成すること、この相内で爆発的な二酸化炭素生成反応が進行することを明らかにした。さらに、格子気体模型も基づくモンテカルロシミュレーションを行い、NO-CO分子間相互作用を定量的に評価した。また、Pd(100)表面上に吸着したH原子と気相から飛来したH原子との反応機構を検討し、従来知られていない新しい素反応経路を見いだした。これに基づいて、表面-水素系のポテンシャルエネルギー曲面の形状や反応ダイナミクスに関する重要な知見を得た。
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