研究概要 |
本年度は、常圧測定用高精度分光分析装置の設計と製作を遂行した。光学系の設計は柏原と長村が担当し、長村が製作した。パルス光源回路ならびに同期ゲート回路の設計と製作は長村が担当し、受光系にはMCPDと低ノイズヘッドオン型の光電子増倍管を併用することによって、それぞれナノ秒時間分解能の波長ベースと時間ベースの測定が可能となった。MCPDの時間分解能は、比較的安定な酸化状態を有する化学種(寿命1マイクロ秒程度)について最大となるため、拡散律速(半減期10ナノ秒程度)に近い速度で分解する化学種の測定には、より高感度の光電子増倍管を用いるほうが望ましいとが確認された。実際の希簿試料の分析では、セルの厚さとして、本装置では片面全反射型で10ミクロン、両面透過型で20ミクロン程度を予定していたが、若干の変更が必要であることがわかった。 柏原は、リンを配位原子とする新規鉄、コバルト錯体を合成単離し、X線構造解析ならびに電子状態について検討した。Bis[1,1,1-tris(dimethylphosphino-methyl)ethane]iron(II)錯体は熱力学的にきわめて安定であり、中心鉄(III)イオンは低ピスン状態であることが示された。電気化学測定より、アセトニトリル中で標準酸化還元電位は銀/塩化銀電極に対して+0.09Vであり、空気酸化にも安定であることがわかった。対応する鉄(III)状態の電子スペクトルの測定は、セルの完成を待って開始することになっている。これらの成果については、別添の論文として報告された。また、共同研究者の高木は、滞在先の英国において鉄-マンガンをふくむ混合金属錯体を合成しその分光学的性質と電気化学的挙動を解明した。これらの成果については現在投稿準備中である。 測定制御用計算機はインターフェイスとのマッチングが容易なMEC社製を採用した。制御プログラムは市販のラピッドスキャンン分光用のものを参考にして、迅速繰り返し機能を付加することにより経費節減を可能とした。測定系の組立はおおむね終了し、年度内に再調整も完了する予定である。このように本研究は当初の予定通り進行している。
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