レーザーアブレーション機構解明のためのナノ秒形態観察・分光システムと解析法の確立

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07554063
• 研究種目: 試験研究(B)
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 増原 宏 大阪大学, 工学部, 教授 (60029551)
• 研究分担者: 岡 宏一 大塚電子(株), 研究開発1部長 ; 笹木 敬司 大阪大学, 工学部, 助手 (00183822) ; 福村 裕史 大阪大学, 工学部, 助教授 (50208980)
• キーワード: レーザー / アブレーション / 吸収スペクトル / 時間分解測定 / 形態観察 / 干渉画像 / 高分子

研究概要

1)蛍光スペクトル分布の異なるクマリンとロ-ダミンの溶液をレーザー励起して撮像光源とし、アブレーション時の飛散物質の画像測定に成功した。光源のスペクトル分布が異なると画像に違いが表れることを見出し、分光画像計測の有用性を示すことができた。さらに、フィルム表面から数ミリメートルの距離において吸収スペクトルの時間分解計測にも取り組み、飛散物質の分子集合状態に起因するスペクトル変化を捉えることに成功した。
2)微小領域において10ナノ秒の時間分解能で形態、干渉画像、スペクトル測定の可能な光学系の設計に取り組み、システムの設計・製作を行った。これにより空間分解能10μmの領域の測定が可能になるものと期待される。現在、システムを立ち上げ、その基本的性能を調べている。
3)現有する色素レーザーを用いて、アントラセン誘導体を含む高分子フィルムのアブレーション励起スペクトルの測定を行った。この結果、励起三重項状態の吸収ピーク付近の波長において、アブレーションにより生成するエッチング深さが最大となることが明らかとなった。この結果は、従来われわれの研究グループが指摘してきた、繰り返し多光子吸収機構の重要性を直接的に証明するものである。今後、導入されたOPOレーザーを用いてより広い領域の励起スペクトル測定に取り組む。
4)アブレーション機構の解明のため、ガラス転移点の異なる種々の高分子フィルムを用いて干渉画像測定を行った。その結果、同一のレーザーエネルギーが吸収されているにも関わらず、ガラス転移点の低い高分子ほど過渡的膨張は大きく、またアブレーションのしきい値は高いことが明らかとなった。これは吸収されたエネルギーが機械的変形と温度上昇の二つに分配され、ガラス転移点の高い高分子では表面の熱融解・蒸発が起こるのに対し、ガラス転移点の低い高分子においては応力破壊が主となるためと考察した。

研究成果

• [文献書誌] Hiroshi Fukumura,Ei-ichi Takahashi and Hirosh Masuhara: "Time-resolved spectroscopic and photographic studies on laser ablation of poly (methyl methacrylate) film deped with biphenyl" J.Phys Chem. 99. 750-757 (1995)
• [文献書誌] Yasuyuki Tsuboi,Hiroshi Fukumura and Hiroshi Masuhara: "UV Laser-Induced Jet Formation from Liquid Surface As Revealed by Nanosecond Time-Resolved Imaging and Spectroscopic Studies" J.Phys.Chem.99. 10305-10312 (1995)
• [文献書誌] Hisashi Fujiwara,Yoshinori Nakajima,Hiroshi Fukumura,and Hiroshi Masuhara: "Laser Ablation Dynamics of a Poly (mcthyl methacrylate) Film Doped with 5-Diazo Meldrum's Acid" J.Phys.Chem.99. 11481-11488 (1995)
• [文献書誌] Hisashi Fujiwara,Hiroshi Fukumura and Hiroshi Masuhara: "Laser Ablation of a Pyrene-Doped Poly (methyl methacrylate) Film:Dynamics of Pyrene Transient Species by Spectroscopic Measurements" J.Phys.Chem.99. 11844-11853 (1995)
• [文献書誌] H.Fukumura,Y.Kohji,H.Masuhara: "Laser Implantation jof Fluorescent Molecules into Polymer Films" Applied Surface Science. (in press). (1995)
• [文献書誌] H.Furutani,H.Fukumura,and H.Masuhara: "Photothermal Transient Expansion and Contracion Dynamics of Polymer Films by Nanosecond Interferometry" J.Phys.Chem.(in press). (1996)
• [文献書誌] 増原宏,福村裕史,笹木敬司,朝日剛: "新高分子実験学第7巻" 共立出版(印刷中), (1996)