研究概要 |
液晶パネルの心臓部である優れた応答速度を示す強誘電性液晶素子の開発にかかっていると言っても過言ではない。今日,高く評価されている強誘電性液晶分子はフッ素官能基を有する場合が多く,強誘電性液晶の供給にあたっては,トリフルオロメチル基を持つキラルパートを如何に「簡便に安価に大量合成」できるかが鍵になる。本研究では酵素反応,特にリパーゼによる不斉アシル化反応を用いて強誘電性液晶分子のキラルパートの安価簡便合成法を確立することを目指して研究を行った。 平成7年度(1)リパーゼ反応の基質となるさまざまなアルキル鎖をもつラセミ体1-トリフルオロメチル-2-アルカノールの簡便な合成法の確立。(2)酵素反応による光学分割反応の基礎的事項の検討を行った。その結果,有機溶媒中Candida antractica由来のリパーゼの不斉アシル化反応によって1-トリフルオロメチル-2-アルカノールの完璧な光学分割を達成した。現在数gレベルで>99%eeの1-トリフルオロメチル-2-アルカノール合成を達成しており,この光学純度は世界最高のものである。光学活性体の光学純度の検定に本年度予算で購入した高速液体クロマトグラフィーが大活躍している。当初目標とした研究成果を予定通りに納めることができ,上記の(1),(2)の項目については,研究目標をほぼ完全に達成できた。酵素の立体選択性についても,酵素の種類によりトリフルオロメチル基とメチル基の不斉認識パターンが異なることもわかり,酵素の分子認識メカニズムを考察する上で学術的に非常に興味深い知見が得られた。ただし,本研究の目玉とでも言うべきリパーゼ不斉アシル化について,エナンチオ選択性は完璧であるが反応速度が極めて遅いという予期せぬ問題が生じた。本研究の目標である実用的な大量合成を達成するためには,次は如何に不斉アシルの反応速度を向上させることができるかが鍵になるものと思われる。
|