本研究では、基板界面近傍における液晶分子の動的配向特性を解析する目的で、空間/時間分解能をかねそなえた新しい分光測定法を確立した。 1.反射型FT-IR時間分解分光法(FT-IR TRS)の採用により、液晶の界面配向ダイナミクスを200ナノ秒の時間分解能で解析することに成功した。また、本測定法の採用により、ネマチック液晶およびマイクロ秒オーダーの高速応答を示す強誘電性スメクチック液晶の電場配向挙動を解析することにも成功した。ただし、FT-IR TRS測定の空間分解能は、高感度反射法(RAS)を用いた場合でもミクロン程度にとどまり、界面挙動のみを選択的に解析することは困難であることがわかった。 2.反射配置の時間分解分光エリプソメトリを採用することにより、界面近傍における液晶分子の配向ダイナミクスとアンカリング特性を100mmの空間分解能で解析することに成功した。また、時間分解能についても、光弾性素子(PEM)によって測定光を変調させることにより、20マイクロ秒の値を実現した。さらに、本測定システムが、入射角が可変であり、界面近傍のデプスプロファイリングができ、透過測定により試料全体のダイナミクス解析ができ、特殊なセルを必要とせず通常のガラスセルで測定できるなどの多くの利点をもつことを明らかにした。 本研究では、これら新しく開発した液晶界面解析法を用いて、ネマチック液晶のホモジニアス-ホメオトロピック転移過程における界面配向ダイナミクス、強誘電性スメクチック液晶における自発分極の反転メカニズムを解析した。時間分解界面配向ダイナミクス解析法の開発は、液晶分子の動的配向特性をナノスケールの空間/時間分解能で解析する新しい研究領域を開くものであり、基礎研究上の意義はもとより、応用分野の研究発展にもつながる高い社会的貢献度をもつものである。
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