本年度三つの主な研究成果が得られた。以下箇条書きにて記述する。 (1)本研究では、従来にないESR測定法、ホワイトノイズ磁場変調によるベクトルESR定法および測定装置の開発を行った。現在、既に測定原理が完成し、本格的な実験を行っている。信号-雑音比の改善と大量データの高速一括処理を解決することにより多周波軸のベクトルESR測定を物性測定に供することが可能となる。各磁場変調周波数における位相情報と振幅情報が動的性質に関する知見を与えることから、本装置によりアモルファス固体や生体系における構成素子のゆらぎの解析が可能となった。 (2)数種類のESR標準サンプルについてベクトルESR測定を遂行した。特に、アモルファス半導体や、異常飽和を示すフラビン・ラジカル、メト・ヘモグロビンおよびカタラーゼそして、飽和の困難なルビー等についてベクトルESR測定の極限状態をみいだした。さらに新しい系に応用し測定技法を確立した。 (3)血清タンパク質アルブミンにスピンラベルし、その物性をベクトルEPR測定により研究した。ベクトルEPR法から求めたBSA溶液(N型)でのSH基に結合したスピンラベルのτ_R値は約10^<-6>秒であり、第一次高調波EPR法から求めたそれよりもかなり大きかった。第一次高調波EPR法から求めたBSA溶液(N型)でのSH基に結合したスピンラベルのSとγの値はそれぞれ0.85と18゚で、かなり異方的な運動を行っていることが示唆された。このことから、BSA溶液(N型)での分子クレパスは、これまでに報告されていたものよりもSH基自身あるいは結合したリガンドの回転運動をかなり束縛していることが明らかになった。
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