研究概要 |
分散補償の原理を用いた時間分解EELS装置の開発は,高エネルギー分解能,高時間分解能で実現できれば画期的である.しかし,収差,空間電荷の問題がある.180°静電半球型分光器の場合,焦点の位置は180°球の端面にあり,試作を設置するには,モノクロメータの出力側と試料位置との間および試料位置とアナライザー入力側との間に,位置情報を失わないようなレンズの設置が要求される.これらの問題を解決するには,長期的には,空間電荷を考慮した電子の軌道計算を行う必要がある.しかし,現段階では,90°球による研究によって,分散補償の原理を用いた装置開発の問題点を突き詰めることは,評価されてよいと考えられる. モノクロメーターおよびアナライザーに90°静電偏向型分光器を用いた分散補償型分光器の試作と調整を行った.分散補償型の分光器の場合,モノクロメーターの出射スリットおよびアナライザーの入射スリットが存在しない.また,電子銃を除いて,既存の電子エネルギー損失分光器に有る電子レンズ系が存在しない.よって,分光器のエネルギー分解能やトランスミッションの調整は,電子銃のみで行わなければならない.いくつかの電子銃用レンズ系を設計・試作し,分解能の向上に努めた.現在までのところ,得られた最高のエネルギー分解能は20meVであり,そのときのダイレクト・ビーム(モノクロメーターから出てきた電子を試料へ照射しないで,直接,アナライザーへ入れる)による検出器電流は200pA程度である.電子銃の性能を上げて,検出器電流を1000pA程度にするように努力した.
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