研究概要 |
コンクリート構造物中の塩化物や硫黄化合物の存在は、たとえ微量であってもその耐久性を著しく損なうことがあるので、これらのコンクリート構造物中における挙動を把握する必要がある。 最近、このための手法としてEPMAによる面分析が用いられるようになった。EPMAは微量元素を精度よく把握できるからである。しかし、ここで問題になるのは元素の存在状態である。セメント硬化体中の塩素は、イオン解離を起こしやすい塩化カルシウムのような水溶性化合物として存在する場合とFriedel氏塩としてセメント水和物の1部に取り込まれている場合があり、後者の存在状態を取る限り鉄筋腐食などの悪影響を及ぼすことはない。EPMA分析は基本的には元素分析であるので、通常の分析結果は塩素の存在状態に関する情報は与えない。本研究はEPMAによるコンクリートの面分析結果のカラーマッピング処理を通じて、Friedel氏塩として固定されている塩素やエトリンガイトを構成している硫黄を簡便に調べる手法を開発しようとしたものである。塩化物イオンの添加量を変化させてつくったモルタル供試体による分析結果は、普通ポルトランドセメントを用いた場合、その重量の0,4%まではほとんどの塩素がFriedel氏塩として固定されるという既往の知見と合致した結果を示した。また、炭酸化が進行しているコンクリート構造物から採取したコアによる分析結果は、炭酸化部分のフロント付近に濃集している硫黄の大半はエトリンガイトとして存在しているという既往の研究結果を裏付けており、本研究で検討した手法の適用性が確認された。しかし、この手法を適用するためには、Friedel氏塩またはエトリンガイトのように元素構成が明らかであることが前提条件であり、またEPMAの分析条件やカラーマッピングの方法などに関して分析の目的に応じた設定を行う必要がある。
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