研究概要 |
急峻な山岳地において頻繁に生起し,レーダー等でもモニタリングできない局地的集中豪雨について生起条件を抽出し豪雨生起後の降雨の時・空間分布特性を導くことによって,山地および都市豪雨水害に対して実時間での降雨予測手法を防災システムの一つとして開発する事を目指し,3年計画の研究の最終年度をとしてラジオゾンデおよび地上水文観測装置を用いた観測と詳細な雲物理過程を考慮した積雲モデルによる解析を行なった.それによって雹の生成を調査することが,豪雨の予知に対し重要であり,そのために空中の水蒸気分布を知ることが重要であるという結論が得られた.従来,測定が困難であった時空間的に詳細な水蒸気分布を知るために,GPSを用いた豪雨時の水蒸気擾乱抽出手法を考案した.以下それぞれについてより詳しく述べる. 1)梅雨前線に伴う豪雨時の水文・気象観測を福井県九頭竜川流域におこなった.観測期間は1997年7月2日〜10日である.観測項目としては3時間毎の大気プロファイル,時空間的に詳細な地上降雨,およびXバンドレーダーによる雨域の移動の定性的観測である. 2)上述した観測データを初期値・検証値として,積雲モデルを用いて豪雨をもたらすような積雲の発達・衰弱をつかさどる微物理過程に与える地形,風速,大気安定度,水蒸気の鉛直分布の影響に関して考察した.その結果,雹の生成量の多寡が積雲からの降雨量に対し極めて重要な指標であること,雹の生成量を決定している要素として重要と考えられるものは中層の水蒸気とそれを上層に運搬する鉛直風の存在であることが示された. 3)前項で示された知見を活用するためには水蒸気の新たな観測手段であるGPSが適切であると考え,GPSを用いて積雲スケールの水蒸気擾乱の抽出を行うための新たな式糸を開発し,その検証を,観測されたデータを初期値として数値計算によって導出された水蒸気常表を用いて行い,良好な結果を得た.さらに1995年度に滋賀県信楽町の京都大学超高層電波研究センター信楽MU観測所近辺のGPSデータによって同上の式糸を用いて解析を行った.GPSデータには観測状況の問題やGPSが本質的に含む誤差の問題が含まれるため,期待された結果を常時出力することはできないが,観測条件がよい場合には開発した式糸は有効であることが示された. 上述された結果から,ドップラーレーダーなどによる鉛直風成分の観測とGPSによる水蒸気擾乱抽出手法が,豪雨の予知にとって効果的であることが結論づけられた.
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