本研究は、トルコのイスタンブールにあるハギア・ソフィア大聖堂を対象に設定し、1)史料に基づくモルタルの構成材料の容積比の推定、2)材料実験による調合と強度、動弾性係数の関係の把握、3)モルタルの耐薬品性の検討を行った。以下のその成果を示す。 1.紀元前1世紀のウィトル-ウィウスの『建築書』によるモルタルの構成材料の容積比が15世紀のアルベルティの『建築論』で追認されていることから、当時使用されていたモルタルの構成材料の容積比を川砂2、消石灰1、レンガ2/3と推定した。 2.推定された容積比を中心に36種類の試験体を作成して実験した結果、消石灰量の割合が細骨材量に比べて大きくなれば、また水/消石灰比が小さくなれば圧縮強度が大きくなることが分かった。曲げ強度と引張強度はそれぞれ圧縮強度の約1/2、約1/10であることが分かった。 3.レンガ粒径0.6mm未満を混入した試験体は粒径0.6mm以上を混入したものより圧縮強度が大きくなっているが、これは微細分のレンガが試験体内の空隙を埋め組織としては密実になっているためである。このことが既にアルベルティの『建築論』で言及されていることは興味深い。 4.消石灰モルタルの動弾性係数は2.0〜4.2x10^3N/mm^2で、コンクリートのヤング係数の約1/10〜1/5であることが分かった。この動弾性係数は、ミナレットの常時微動測定から同定されたヤング係数と良い一致をみた。 5.耐薬品性試験として酸性雨(硫酸)と消石灰がもっとも激しく反応する状況(塩酸)を想定し、モル濃度10%の溶液に試験体を浸漬した結果、硫酸による反応ではレンガ粒径1.2〜2.5mm、あるいは2.5〜5.0mmを混入したモルタルが動弾性係数の変化で若干優れていることが分かった。
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