研究概要 |
平成8年度の研究成果は,以下のとおりである。 1)組積造試験体による実験では,組積造としての強度特性と変形(静弾性係数)に関する検討の結果,レンガ粒径0.6mm未満を混入した試験体の圧縮強度が大きくなること,また,付着せん断強度は圧縮強度の約1/10であることが分かった。静弾性係数はミナレットの常時微動測定から同定されたヤング係数に良い一致をみた。 2)1)の実験で得られた材料定数を用いてハギア・ソフィア大聖堂の水平荷重に対する応答性状を分析した結果,地動加速度80gal程度に相当する中規模地震に対して大聖堂は安全であることが分かった。 3)消石灰モルタルとCO_2濃度5%を反応させた中性化試験を行った結果,中性化しない試験体と比べて圧縮強度が1.3〜1.6,引張強度が1.4〜2.3倍の強さであることが分かった。 4)耐薬品性は塩酸・硫酸のモル濃度10%溶液をスプレーする方法で行った結果,試験体の表面状態は中性化したものに顕著な劣化が認められた。なお,現在実験は継続中である。 5)耐薬品性試験では,本モルタルの強度性状が普通コンクリートの約1/10,イスタンブールの気候条件を考慮して,5〜-5℃の凍結融解試験(B法)による試験の結果,中性化したモルタルが耐凍害性に優れていることが分かった。なお,現在実験は継続中である。 6)天井高さ7mの室で人体発生熱・水分の流動実測を行った結果,冬季の空間密閉時では人体発生水分による結露発生の危険性が高いこと,流体数値計算では,人体周辺の気流と人体発生水分の運搬軌道を明らかにした。また,その効果的な対策の方向性を見出した。 7)保全対策として重要な塵埃被害については,エア-シャワー設備などを含む対策案の可能性を検討した。
|