研究概要 |
セラミックスの構造に関する研究において電子密度分布に関する理論と実験の両面からのアプローチは大変重要である。実験的な手法においては、しかし、理想的不完全結晶を前提とする運動学的近似に基ずく構造因子の計算値は実測値としばしば大きなずれを生じる。このずれの最も大きな要因は消衰効果で、正確な見積もりが難しい。実験的に消衰効果を低減するには結晶の大きさを小さくするか、使用するX線の波長を短くすることが効果的である。本研究はこの消衰効果をほぼ完全に無視できるような実験条件を探し、理想的な状態で回折データを収集し、セラミックス結晶中の電子密度分布の様子を正しくとらえることを大きな目的の一つとした。また、微小結晶法がセラミックス粉体の構造的研究にいかに有用であるかを多くの試料での測定結果から示した。具体的な例として、K_2NiF_4型構造をとるCaYAIO_4結晶の解析をあげると、大きさが約10μm程度の微小なセラミックス結晶をもちい、高エネルギー物理学研究所放射光実験施設ビームライン14Aに設置された水平型四軸回折計似よて回折強度データを収集し、従来、精密な解析をする上で妨げとなっていたX線の消衰をほぼ完全に避け得ることを示した。また、セラミックスフィラーとして応用が期待されるMg_6SO_2(OH)_<14>粉体の結晶構造を、放射光をもちいた微小結晶回折法により初めて明らかにし、繊維状の自形をもち、決して大きく成長することのない理由について考察した。そのほか、チタン酸バリウム、鉛を含むリラクサ-誘電体の構造、CuInSe_2,MnS_2などの電子密度分布、LaTa_3O_9、LaNb_3O_9などの欠陥ペロブスカイト型化合物、LiNbO_3やLiTaO_3などイルメナイト型化合物の電子密度分布、含鉛セラミックス原料の一つであるPb_2(C_2O_4)(NO_3)_2・2H_2Oの構造、希土類酸化物の電子密度分布の測定など、多くの有用なセラミックス結晶の構造的研究を行ない、放射光を用いた精密な構造解析が、微小な大きさをもつセラミックスの研究に極めて有用であることを総合的に明らかにした。
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