平成8年度では、まず、前年度からの課題として残った熱膨張測定システムの主要部分である加熱炉について調査した。その結果、顕微鏡下で物質の高温状態変化や溶融状態での挙動を観察する場合に用いられている電気炉を購入し、その炉の有効性について検討した。本電気炉においては、昨年度に製作した炉とは異なり、熱による大気の擾乱を、炉と干渉計との間の距離を近づけることにより極力抑えれることがわかった。したがって、本電気炉と干渉計とを組み合わせることにより、基板上薄膜の熱膨張率を基板の反りの曲率半径の温度依存性から求めるシステムを新たに構築した。構築後は、基板試料の最適寸法や種類を探索するとともに、構築したシステムの適否を判定するために、シリカをスパッタして得たシリカガラス基板上の非晶質シリカ薄膜について薄膜について基板の反りの温度依存性を調べた。その結果、薄膜形成時に導入される膜内の真応力が基板の反りの温度依存性に大きく影響を及ぼし、この応力を如何に熱処理によって除去するかが重要な問題であることが明らかとなった。この応力を除去するための熱処理条件を決定したのち、熱処理による真応力除去後の基板上非晶質シリカ薄膜試料について基板の反りの曲率半径の温度依存性から薄膜の熱膨張を求めた。得られた曲率半径の温度依存性はより直線性を示し、その直線の傾きから得られる非晶質シリカ薄膜の熱膨張係数は、シリカガラスの熱膨張係数と同じ値を示した。この結果は、本研究で新たに構築した熱膨張測定システムの有用性を立証するものである。さらに、本システムを用いて、約1μmの非晶質アルミナ薄膜の熱膨張率を初めて求め、報告した。
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