形状記憶合金表面に金属Tiをプラズマ溶射する際、試料表面が2000℃以上に加熱されるため、形状記憶性を失う危険がある。そこで、Af点上下での繰返し曲げ試験、示差熱分析により確かめたが、形状記憶性に変化がないことがわかった。また、溶射時にTiが酸化され、接合性を失う危険性が考えられたが、金属状に溶射されており、直かつ、Ti膜とNi-Ti合金との接合性も良好であった。そこで、各厚さのTi膜を溶射し、Hankの生理食塩水中で電気化学分極実験を行ない、Ni-Ti合金に対する防食性能の評価を行なった。Ni-Ti合金そのものは不働態領域ではNiイオンの溶解が観測された。皮膜形成溶解電気量とICP分析の結果から、Niイオンは不働態皮膜の形成に伴う溶解であることを明らかにした。しかし、Tiをコーテイングした試料は殆んど溶解せず、防食効果があることがわかった。本Ni-Ti合金は、OV付近で孔食を発生することを観測した。この溶解ではNi^<2+>とTi^<2+>が合金比で溶解することをICP分析から明らかにしたが、Tiコーテイングの防食効果が殆んどないことも明らかとなった。むしろ、Tiコーテイング膜の厚いほど孔食電位は僅かに卑な方向にシフトする傾向が見られた。これは、Ti溶射層が多孔質なため、塩化物イオンが存在するとすでに孔食または隙間が存在する状況と同様となり、Tiコーテイング膜の厚いほど深い食孔となっており、より激しい孔食を起こすためと考えられた。このことから、Tiコーテイングだけでは生体内でのNi-Ti合金の防食は殆んど不可能であることがわかり、生体親和性からTiコーテイング層の多孔性を残しながら、封孔処理技術を開発することが肝要であることがわかった。本研究の一部は第42回腐食防食討議会(1995.9、札幌)にて発表した。
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