前年度の研究結果から、プラズマ溶射法によるTi金属の被覆は返って下地Ni-Ti合金の孔食を増大させることが明らかとなり、封孔以外には有効な手段は無いものと考えられた。しかし、生体内環境では材料としては耐熱性はそれほど必要としないが、生体親和性を持つことを必須の条件とする。そこで今日生体材料として使用されている高分子材料に注目した。弾力性に富み、生体埋め込み材料として使用されているシリコーンを用いた。シリコーンは一般には高分子のため比較的粘度が高く、市販の接着剤タイプではTi溶射層の表面のみに重合し、被覆膜しか形成しなかった。この材料の弁極実験では孔食は発生せず結果としては良好であったが、経時変化による劣化と表面多孔性の消失が問題となった。そこで、樹脂を希釈することにし、溶剤の選択を行つた結果、四塩化炭素が最も適していることがわかり、希釈度を変えてTi層への浸透重合を試みた。希釈濃度の最適値は0.5〜0.7g/mlCCl_4であったが、しかもこの希釈液への試料の浸漬を4回以上繰り返すと孔食ほ発生しない優れた封孔材料が得られることがわかった。しかし、Ti封孔層の断面のEPMA分析から、シリコーンはTi層内の表面から1/3程度しか侵入しておらず、長期寿命を考慮すると、十分とは言えず、Ti層の底まで達するような高分子材料の選択と、注入法の開発が今後の発展を左右するものと考えられた。
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