著者らは生体インプラント材料としてNi一Ti形状記憶合金の利用を考えているが、そのままでは孔食が発生するので、表面にTiをプラズマ溶射して防食を試みた。しかし、溶射層が多孔質であるため、むしろ孔食を増長させる結果となり、生体親和性の有機高分子を用いて封孔することを試みた。樹脂としては一液硬化性のシリコーン樹脂、二液型のエポキシ樹脂、一夜性型、速乾性で、比較的粘性の低い、シアノアクリル系樹脂の三種類の接着剤を採り上げ、それらの封孔持性およびその孔食防止性能の評価を検討した。シリコーン樹脂、二液型のエポキシ樹脂はいずれも粘度が大きく、そのままではTi溶射多孔層内部に浸透出来ず、溶媒による希釈が必要であった。シリコーン樹脂では四塩化炭素が最適な溶媒であるが、エポキシ樹脂ではアセトンが最適であった。また、希釈した樹脂に試料を浸しで浸透させる時に超音波を併用すると効率が向上した。これは細孔中の空気が脱離し易いためである。シアノアクリル系樹脂は粘度が低く、溶媒は必要ないと考えられたが、浸透しても速乾性なために底部まで到達しない内に固化した。このため硬化速度を制御する目的で溶媒を使用した。封孔性能については電気化学分極法により評価したが、性能はエポキシ樹脂>シアノアクリル系樹脂>シリコーン樹脂の順であった。三者ともそれぞれ底部まで浸透する最適条件が得られたが、上の異差は樹脂の吸水性の差によることが分かった。Ni-Ti合金の表面を直接高分子膜でコーティングする方法として、テフロン系樹脂のプラズマプレーテイングを試みたが、非常に薄く、破れ易く密着性が悪く、実用上に問題を残した。
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