研究概要 |
「酵素の三次元吸着場を与えるイオン交換高分子鎖を利用した酵素反応場の開発」という研究課題を達成するためには、イオン交換基をもつグラフト鎖を多孔性膜材料に固定して、目的の酵素をそこへ積層させて吸着させる方法を確立する必要がある。 そこで、まず、基材としてポリエチレン製の中空糸状精密ろ過膜(内径2mm、外径3mm,孔直径0.1μm、空孔率70%)を選び、電子線を照射してラジカルをつくった。照射基材をエポキシ基を有するモノマー(グリシジルメタクリレート)液中に投入して、接ぎ木(グラフト)重合によって高分子鎖(グラフト鎖)を固定した。つぎに、高分子鎖中のエポキシ基をジエチルアミンと反応させて、ジエチルアミノ基(プラスに荷電)に変換した。酵素は、その等電点を境にしてそれより低いpHではプラスの、高いpHではマイナスの電荷をもつので、緩衝液のpHを選択することにより,膜に固定化された高分子鎖中のジエチルアミノ基に酵素を吸着させることができる。グラフト鎖同士の反発によってグラフト鎖が膜の孔表面から伸長するので、それによってできた空間に酵素が積み重なるように吸着することを見いだした。酵素の吸着量を理論単層吸着量で割って、酵素の積層数を算出した.たとえば,ウレアーゼの場合,40層にも相当する積層数となった.既往の研究には報告のない高い吸着量であった. 吸着した酵素の活性が維持されることを調べるために,酵素を塩濃度を上げた緩衝液で膜から溶出させた.ウレアーゼの場合,活性は90%維持されていた.イオン交換基をもつグラフト高分子鎖がゆらゆらと酵素を柔らかく包み込んでいることが推察された.
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