本年度は臭化銅(II)-t-ブトキシリチウムから調製される銅(II)酸化剤を用いる三種の合成プロセスの開発、酸化活性種の単離に関する検討を行った。 1.α-ヒドロキシカルボン酸のケトンへの変換;α-二置換α-ヒドロキシカルボン酸を二当量の銅(II)酸化剤で処理すると脱炭酸を伴って酸化が進行し、対応するケトンが得られた。 2.α-アミノ酸の酸化;α-アミノ酸の酸化ではアミンのイミンへの酸化とα-イミノカルボン酸の脱炭酸的な酸化が連続して起こり、アルカンニトリルが高収率で得られることが判った。この変換に用いられる従来法がいずれも水溶液中での反応を必要とするのに対して、この反応は完全な無水条件下で行われるため、従来法の問題点であったアルデヒドの副生が見られず、抽出後に蒸留するという簡便な方法によりアルカンニトリルが得られた。この結果は本銅(II)酸化剤の高い実用性を示している。 3.ヒドラゾンのgem-二臭化物への変換;モレキュラーシ-ブ4A存在下、ケトン・アルデヒドにヒドラジンを作用させるとアジンの副生を伴わずに無置換ヒドラゾンが得られることを見出した。これに銅(II)酸化剤を作用させるとgem-二臭化物が好収率で得られた。この種の化合物は一般に不安定であり、そのケトン・アルデヒドからの合成には適当な方法が知られておらず、本反応は初めての実用的な合成法である。 4.銅(II)酸化剤の単離;臭化銅(II)とt-ブトキシリチウムから調製した酸化剤溶液から酸化活性種を褐色固体として単離した。この物質は空気中の水分に対して敏感であり、酸化活性の低下が認められた。現在その安定化について検討している。
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