研究概要 |
ピロール環のβ-位への置換基の自在な導入は新しい医薬、農薬などの開発のうえで不可欠である。本研究では、モリブデン、タングステンの窒素錯体から誘導される新規ピロリルイミド錯体の特性を活用することにより窒素分子からβ-置換ピロールを合成する、全く新しいピロールの合成プロセスを開発することを目的に検討を行い、以下の成果を得た。 まず、モリブデン、タングステンの窒素錯体[M(N_2)_2(dppe)_2](M=W, Mo), [W(N_2)_2(PMe_2Ph)_4]からプロトン化と2,5-ジメトキシテトラヒドロフランとの縮合により1-ピロリルイミド錯体[MF(NNC_4H_4)-(dppe)_2][BF_4](1a, M=W; 1b, M=Mo), [WX_2(NNC_4H_4)(PMe_2Ph)_3]2を得た。続いて錯体1のアシル化、ブロモ化、スルホン化、シアノ化を詳しく検討した結果、これらの反応が遊離のピロールと異なり高度にβ-選択的に進行することを見出した。錯体1の結晶構造からの考察では、このβ-選択性はdppe配位子のフェニル基が錯体上に形成されたピロール環のα-位を覆い隠すように配置しているためと考えられる。一方、錯体1,2からピロール、N-アミノピロールを遊離させる反応を種々検討したところ、錯体1aのLiAlH_4還元ではピロールが選択的に(80-83%)、また1bの場合にはピロール(66-67%)とN-アミノピロール(33-34%)が得られ、[MH_4(dppe)_2](3)が回収された(M=Mo, 45-48%; M=W, 15-22%)。錯体3は窒素ガスとの反応で窒素錯体に変換できることが知られており、窒素分子からピロール、N-アミノピロールを合成するサイクルを実証することができた。さらに、1aをヘプタノイル化して得られるβ-ヘプタノイルピロリルイミド錯体をLiAlH_4還元したところ、β-ヘプチルピロールが得られた(74%)。β-置換ピロールを窒素分子から実際に合成できることが示せたことは極めて重要な成果である。このほか、錯体2およびその誘導体のアルコール中KOHとの反応の検討から、選択的かつ定量的にN-アミノピロールを得ることにも成功している。
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