研究概要 |
生理活性物質を効率的なルートで合成するため、酸化還元反応に基づいた新規な骨格および官能基変換法を開発することで、従来にない全合成ルートを明らかにすることを研究目的とする。 まず、遷移金属錯体の一電子還元系を有効に用い、ラジカル中間体を経由する合成反応において新規な合成手法を開発した。バナジウムの一電子酸化還元過程を、gcm-ジブロモシクロプロパン類のモノ脱ハロゲン化に適用したところ、モノブロモシクロプロパン類の生成において、非常に高い立体選択性が見られた。還元剤として亜鉛を共存させると、可逆的な酸化還元サイクルが形成され、触媒反応が進行することが判明した。反応系にトリエチルホスファイトまたはジエチルホスホナ-トを共存させることが必須であった。ホスファイトのリン原子とバナジウム金属の相互作用により還元能力を発現させていると考えられる。このような錯形成は立体選択性発現の要因にもなっていると推測される。さらに、トリエチルホスファイトまたはジエチルホスホナ-トはラジカル中間体の捕捉のための水素源ともなっており、配位圏において、効率的な還元が起こっているものと思われる。 この触媒還元系は有用だが、炭素-炭素結合形成に適用するため、バナジウムの酸化還元機能が機能的に作用する他のレドックスシステムを開発した。カルボニル化合物のラジカルカップリングによる炭素-炭素結合形成で検討した。アルデヒドのカップリングにより、1,2-ジオール誘導体である1,3-ジオキソランが生成した。還元カップリング反応は触媒的に進行したが、この還元系にはクロロトリメチルシランが共存することが必須であった。現在、この一電子還元反応におけるバナジウム複合還元系の電子的相互作用を詳細に研究するとともに、エイズ関連の抗HIV剤であるprotcase Inhibitor A-77003合成への適用について研究を展開している。
|