研究概要 |
本研究では、生理活性物質合成における鍵反応として適用でき、従来にない合成ルートを可能にする、レドックスに基づいた新規な骨格および官能基変換法を開発してきた。 1)パツロリドAの全合成の合成ルートを明らかにするとともに、より生理活性が高いと思われるマクロリド系誘導体を、ホスホン酸ジアルキルによる還元的非共役化法を用い、系統的に合成した。例えば、β,γ-不飽和カルボニル基またはγ-オキソ(または ヒドロキシ)-α,β-不飽和カルボニル基を有する生理活性化合物を合成した。 2)遷移金属錯体の一電子還元系を有効に用い、ラジカル中間体を経由する合成反応において新規な合成手法を開発した。バナジウムの一電子酸化還元過程を、gem-ジブロモシクロプロパン類のモノ脱ハロゲン化に適用したところ、モノブロモシクロプロパン類の生成において、非常に高い立体選択性が見られた。還元剤として亜鉛を共存させると、触媒反応が進行することが判明した。反応系にホスホン酸ジエチルを共存させることが必須であった。低原子価希土類金属も脱ハロゲン化反応に有効であった。 3)Protease Inhibitor A-77003の全合成に適した触媒的ピナコールカップリングのための有用なプロセスを検討した。バナジウムによる一電子還元反応では、溶媒をジメトキエタンからテトラヒドロフランに変えると、生成物はジオキソランからジオールになることが判明した。前者が生成する場合には、基質のアルデヒドが一当量無駄になるので、このように単に溶媒を変えるだけで効率化がはかれた。触媒にチタン化合物を用いた場合には、いずれの溶媒を用いてもジオキソランのみを与えた。反応のジアステレオ選択性は反応基質の立体化学に依存し、立体障害の大きいアルデヒドのピナコールカップリングでは、バナジウム一電子還元触媒系を用いることにより、高いdl選択性を発現できた。
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