全光学的に動作する光論理回路動作を実現するために、入力光強度に対して高低二つの光出力状態を有する光双安定素子を試作し、素子の動作実証を行うことを研究の目的としている。研究によって得られた成果を要約して以下に述べる。 1.導波路形光双安定素子の設計 光ファイバ通信に利用される波長領域で動作する素子を実現するために、直接遷移型半導体の光強度依存屈折率変化を調べ、材料のバンドギャップ波長と非線形屈折率係数ならびに非線形吸収係数の関係を明らかにした。さらに、これに基づいて波長1550nm帯で40mW程度のスイッチング光パワーで動作する双安定素子の設計を行い、その動作特性を明らかにした。 2.導波路形光双安定素子の動作実証 バンドギャップ波長1430nm近傍のInGaAsPを導波層に用い、分布反射形光帰還(DFB)構造を有する光双安定素子を試作した。波長1560nmの光を用いて動作実験を行い、バイアス光強度18mW、セットパルス28mW、リセットパルス12mWで双安定動作を示すことを実証した。ここで、透過光強度は、高透過率状態で3.4mW、低透過率状態で1.4mWである。また、スイッチング応答速度はサブナノ秒以下である。 3.分布反射器装荷型非線形結合導波路の動作実証 光論理素子を制御する信号光を生成するために、光制御型の光スイッチング素子を検討し、反射出力光を入力信号と分離して取り出すことのできる分布反射器装荷型非線形結合導波路を考案した。この素子は、従来の非線形方向性結合器に比べて、同じ材料で素子を形成した場合でもスイッチングに必要な光パワーが約1/10に低減できることを論理的検討によって明らかにした。さらに、バンドギャップ波長1430nm近傍のInGaAsPを導波層に用いてこの素子を試作し、1550nm波長において基本的な動作実証に成功した。
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