研究概要 |
非接触,非汚染の温度測定法として,放射温度計測の重要性がますます高くなっている.このためには,測温対象物の放射率の正確な値が必要となるが,データの蓄積量は十分とは言い難い.本研究は,固体および液体状態の金属および合金の放射率を温度および波長の関数として系統的に測定することを目的としている.本年度は,主に,(1)コールド・クル-シブルを導入した,コンタミネーション・フリーの放射率測定装置を作製することと,それを用いて,(2)銅の分光放射率を測定することを目的とした. 作製した放射率測定装置は,コールド・クル-シブル,光学系及び分光器より成っている.コールド・クル-シブルでは,高周波誘導加熱によって試料のみを加熱できるので,試料以外からの放射光は分光器に紛れ込まない.したがって,放射率は,分光器によって測定される,試料からの放射強度と同一温度における黒体からの放射強度の比として決定できる.銅の放射強度は以下のように測定した.試料を融点以上の温度から冷却すると,融点では凝固潜熱の放出によって温度が一定になる停滞期が出現し,それに対応して放射強度も一定となった.この放射強度を融点における銅の放射強度とし,その値と予め測定した黒体の放射強度との比から放射率を算出した.また,分光器の校正用光源としては,銅の融点にある黒鉛製の定点黒体を用いた. 銅の融点における分光放射率を550-850nmの波長範囲で測定したところ,550nmにおいて0.276,850nmにおいて0.090の値を得,放射率は,波長が長くなるとともに単調に減少した.この結果は,融点で測定された光学定数から求めた放射率の値と非常によく一致しており,本測定法の妥当性が確認できた.今後は,(1)融点以外の温度における銅の放射率の測定,(2)他の金属・合金系についての測定に研究を進める.ただし,その前に,(3)コールド・クル-シブルにおける温度測定技術を確立しておく必要がある.
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