光学活性の環状アミノ酸の一種であるL-ピペコリン酸はピペリジンアルカロイドの基本骨格をもち、その誘導体は医薬品などの合成に有用であるためその需要が高まっているが、現在のところ、工業的生産法は確立していない。本研究では、安価な原料であるL-リシンを半導体光触媒によりL-ピペコリン酸に一段階で変換する反応について、プロセスの実用化の可能性を検討した。 平成7年度には、(1)半導体光触媒のスクリーニング、(2)反応機構の解明、さらに、(3)ミクロスケールの反応で得られた目的生成物の精製法の確立と純度評価を行なった。また、小型光反応装置(2-3リットル)の設計を行ったが、ミクロスケールの場合とは触媒粒子に入射する光の条件が著しく異なることが判明した。本年度は、再度小型光反応装置の設計を行うとともに、光入射条件が反応におよぼす影響について検討した。その結果、光強度が大きく水銀灯外壁から懸濁液の比較的内部まで光が入射する場合には、光強度が小さい場合と比べてL-リシンの転化率に対するピペコリン酸生成量割合、すなわち選択性が向上するが、副生物も増加するため、最適な強度があることを見いだした。また、水銀灯における電気-光エネルギー変換効率を測定したところ、反応に有効な波長の光は投入した電気エネルギーの数パーセントにすぎないことが判明した。さらに、反応混合物から触媒粉末ではなく、生成物を取り出す後処理プロセスについて検討し、イオン交換樹脂を利用することによって、生成物であるL-ピペコリン酸、出発原料であるL-リシン、および副生物であるアンモニアを、触媒懸濁液から回収することに成功した。
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