研究概要 |
光学的に純粋な単一異性体を経済性に優れた方法で工業的に合成できる技術を開発することは,薬物開発をはじめ,光学活性な化合物を必要とする分野にとって極めて重要な課題である。現在,光学異性体を工業的スケールで得る方法には,物理的または化学的方法として優先晶析法やジアステレオマ-塩法などがあり,さらにアミノ酸類の製造で確立されている酵素法や生物化学的方法が知られている。本研究は,ジアステレオマ-塩のクリスタルエンジニアリングを基に,分割剤と被分割剤との分子認識機構を明らかにし,分割剤選定基準の一般化を目指し,また,得られた結果に基づいた新規光学分割助剤の開発を目的として行った。 マンデル酸は比較的安価で,1-フェニルエチルアミンを初めとして各種のキラルアミンの分割剤として広く用いられている。そこで申請者らは,マンデル酸による光学分割機構の解明のため,各種1-フェニルエチルアミン誘導体の光学分割を試みた。その結果,アミンの芳香環上の置換基によって分割成績が大きく変化することを見出した。すなわち,オルト置換体の分割は比較的良好な結果を与えたのに対し,メタ置換体は置換基の種類に依存し,さらにパラ置換体は全く分割できないことが明らかとなった。一方,マンデル酸のフェニル基のパラ位にメチル基を導入し,同様に光学分割を試みたところ,パラ置換1-フェニルエチルアミンを分割できることがわかった。これらの結果から,酸とアミンの分子長差が分割能に影響を与えることが示唆された。 一方,いくつかのジアステレオマ-塩についてX線結晶構造解析を行なったとろ,いずれも結晶内で特徴的な2次元水素結合ネットワークが形成されていることがわかった。この水素結合ネットワークの形状が分割能に影響を与えているものと考えられるため,現在さらに多くの塩について結晶構造を分類・検討中である。
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