研究概要 |
パクリタキセル(タキソ-ル^イ)は極めて有望な抗癌剤として注目を集めている。医療現場からの需要が高いことから、パクリタキセルの全合成法の確立は重要な命題の一つである。また、パクリタキセルはかなり複雑な構造を持っていることから、より簡素化された構造類縁体でパクリタキセルと同等もしくはそれ以上の活性を有する化合物群の合成及び活性評価法の確立も将来的に重要性が高いと考えられる。この観点から、効率的で、且つフレシキブルなパクリタキセル全合成法の開発を目的として研究を開始した。 まず、A環シントンとC環シントンをそれぞれ合成した後、両者を連結してB環前駆体を合成し、これを閉環することによってB環を構築するconvergentな合成法を設計し、その可否を検討した。 先ず、ラセミ体のA環シントンを2,2-ジメチル-1,3-シクロヘキサンジオンから10工程で合成した。また、C環シントンをR-(-)-カルボンを出発原料として12工程で合成した。両シントンをパクリタキセルの10位と11位に相当する部分で連結した。B環の閉環方法として、パラジウムとジエチル亜鉛を用いて3位にアリルアニオンを調製し、2位のアルデヒドへ付加させる反応、またはオレフィンとアルデヒドとのエン反応を鍵反応として用いることをデザインし種々検討してきたが、これまでのところB環の閉環には成功していない。 これは閉環の際に2位と3位が十分に接近できないためと考えられる。そこで、閉環に先立ってパクリタキセル9位の酸素官能基を導入し、9,10-ジオールとしてから環状アセタールに変換すれば、9,10位間、及び10,11位間での自由回転が抑えられ、2位と3位が接近した立体配座が安定化されて、B環閉環が容易になると予想した。そこで予め9位に酸素官能基を組み込んだC環シントンを合成した。現在は、この新規C環シントンを用いてB環の閉環を試みるとともに、キラルなA環シントンを得るべく、分割、不斉合成の両面から検討している。
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