研究概要 |
本研究では、生分解性ポリマーとして注目されている一成分系脂肪族ポリエステルの構造-物性相関を明らかにすると共に、構造規制と実用化を企図した新しい化学合成法の開拓を検討したものである。 本年度は、(1)L-乳酸メチルを用いて、直接縮合によりポリ-L-乳酸(PLLA)を合成する試みを行った。従来、この重縮合は進行しないとされてきたが、特殊なスズ系触媒の採用により平均重量分子量10,000-30,000のPLLAが得られた。縮合の進展とともにラクチドの生成が進行して重合度の飛躍的な上昇が妨げられた。昨年度、L-乳酸の直接加熱脱水縮合では、100,000を超える分子量を有するPLLAが得られることを報告しているが、L-乳酸メチルの直接縮合ではエステル交換反応による反応制御が難しいと考えられる。(2)PLLAとポリエーテル(Puluronic^<TM>)のブロック共重合体の合成ならびにその繊維化を検討し、生分解性を示す繊維素材の開発に成功した。さらにその表面物性についても検討を加えた。(3)L-ラクチドの重合をPLLAの融点以下で行うことにより、固相系で後重合を行うことができること、また、PLLAの結晶化を伴う後重合により生成ポリマー中の残存モノマーを大きく低減できることを見いだした。(4)二成分系脂肪族ポリエステルであるポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)の繊維化を検討し、その酵素分解性を評価した。生分解性ポリエステルの化学合成は発酵合成に代わるプロセスとして重要であり、その応用は、工業分野(分解性プラスチック)だけでなく医用分野(生体内吸収性材料)にもわたるため、本研究の成果は学会だけでなく産業界からも注目を集めている。
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