研究概要 |
高い弾性を持つ骨組を開発するために、高強度材料を用いた鋼構造骨組を用いることを考える。ここでは、各種の鋼材を用いた骨組の柱梁接合部近傍の力学的性質を明らかにするための実験研究を中心に行った。 柱梁溶接接合部の力学特性は数多くの因子の影響を受けるため、本実験では影響因子をそれぞれ理想化したA-type,B-type,C-typeと名付けた3タイプの試験体を用いた。A-typeは試験体の中央部をレ型突合せ溶接したもの、B-typeは柱フランジ部に相当する鋼材の板厚方向部を試験体の中央部に挟み突合せ溶接したもの、C-typeは梁フランジ部、柱フランジ部、水平ダイアフラム部とレ型突合せ溶接部分からなる理想化した試験体である。また、溶接継手と母材の力学的諸特性を比較するため、A-typeと同一形状で溶接部を有さない母材の試験体も制作し、単調引張載荷実験を行った。使用した鋼材は普通鋼(SS400,SM490)、高張力鋼(WT590,WT780)、高性能高張力鋼(M-WT590,M-WT780)の6種類である。さらにこれらの試験体の形状は、梁端部における応力の勾配を想定し、テ-パ-状に仕上げた試験体も製作した。よって、試験体の種類は、溶接部の有無、試験体のタイプ、梁材と柱材の組合せ、そして応力勾配の有無により決定し、試験体数は合計64体である。溶接方法は全てCO_2ガスシールドアーク溶接とした。本研究より得られた結論を以下に示す。 1)普通鋼は溶接部が母材に対して、オーバーマッチングになっているので、たとえ溶接部の余盛が無い場合でも、安定的な荷重-平均歪み関係を示す。 2)溶接部の余盛が無い場合、高張力鋼と高性能高張力鋼ともに、溶接部が母材に対してアンダーマッチングになっており、歪みは溶接部に集中する。このとき、小さな歪み振幅、少ない繰り返し回数において破断にいたり、破断時の荷重は最大荷重を下回る。 3)溶接部に変形を拘束する他の部材が存在すると、大きな歪み振幅に対しても耐えることができる。 4)高性能高張力鋼は、高張力鋼と比較すると、溶接部が母材に対してアンダーマッチングになっていて溶接部に歪み集中を起こしたとしても、繰り返し載荷中の早期に母材も塑性化するため、歪み集中が緩和される。 5)高弾性骨組への高張力鋼の適用は、基本的に弾性範囲で用いることを基本とするが、梁フランジが塑性化する場合、その塑性化域の平均歪みが0.6%までは塑性化を許容しても構わない。しかし、1.0%までの平均歪みを要求するなら、溶接部は母材に対して10-20%のオーバーマッチングにする必要がある。
|