研究概要 |
水銀系酸化物HgBa_2Ca_<n-1>Cu_nO_yは、従来知られている物質の中で最も高い臨界温度(n=3でTc=135K)を示す超伝導体であるが、合成プロセスの困難さ、化学的不安定性、弱い磁束ピニング特性などのために実用材料としての可能性は低いと考えられてきた。しかしながら、レニウム(Re)などの遷移金属元素の添加が、本系化合物の構造的・化学的安定化に有効であることが、本申請者らにより提案され、注目を集めている。本研究では、このような改質剤を添加した水銀系超伝導体の材料化と高臨界電流密度化を図るための基礎研究を行った。 成果として以下のことが明らかにされた。(1)Cr,Moなどの遷移金属添加が構造安定化に寄与するがReが圧倒的に有効である、(2)Re添加により、従来合成することの出来なかったn=3,4,5組成を有する単結晶の育成が可能となった、(3)多結晶を用いた中性子線回析と単結晶を用いたX線回析法により、詳細な結晶構造が明らかにされた、(4)ReはHgサイトを部分置換し導電キャリア量を増すとともに、系の電気的異方性を下げ、臨界電流の飛躍的向上に貢献する、(5)表面にCrおよびAgをスパッターコートした短尺Niテープ上にHg1223相を生成させるための条件が確立した。 現時点で、作製したNiテープ線材(臨界温度は130Kを越える)の液体窒素温度における臨界電流密度は目標値である10^5A/cm^2に達していないものの、今後、結晶粒の配向化向上と粒界のコントロールを中心とした研究を継続することによって、液体窒素温度で大電流用途を目指す実用材料を作製するための手がかりが得られた。
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